モリリンの腹黒ゲーム開発[就活編]
#2 自己分析って?

  • 2011年12月10日

「で、自己分析ってどれくらいやればいいのか、よくわからないんですよね」
 シブチンは自分の好きなものまではたどり着いたようだ。
「自己分析はね、試験勉強と一緒」
「え? どういうことですか?」
 メモを取るシブチンの右手が止まった。
「全然やらないでも内定取れる人はいるし、毎日1時間やりこんだからって、いい結果が出るわけでもないし」
「やらないでも内定? 面接でよく出る質問とか知ってればいいってことですか?」
「うーん……ちょっと違うかな」
 目の前のアイスティの脇には、使わなかったガムシロップが置いてある。
「例えばこのガムシロップ、いくらだと思う?」
「え、10円とか20円とかじゃないですか」
「実は1年に10個しか作れないとか、ドバイの大富豪しか知らないとか、レアアイテムだったら?」
「そしたら、10万とか100万かも……」
「いまのシブチンもこのガムシロップと同じ。売る側がよくわからないものを用意しても、買う側は迷うよね」
「そうですね。ガムシロップ売られてもな」
「自己分析もそういうこと。自分を売るためには、自分のことを知っておかないと」
「自分のことを知る……なるほど!」

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発[就活編]
#1 就活って?

  • 2011年12月09日

 プラモデルをつくりたい。シブチンのその想いは大事だが、それだけでは内定はもらえない。
(まずは自己分析でしょ、で自己PRまとめて、SPI勉強して、業界研究……いや、その前にインターンやって仕事を理解しつつ企業にアピール……ん?)
「シブチン、就職活動ってひとことでまとめるとなんだと思う?」
「え、仕事探し、じゃないですか?」
 学生の視点で考えたらその通りかもしれない。とはいえ、社会人となってから振り返ると、それだけでは足りない気がする。
「自分自身を売ること」
「え?」
「やりたい仕事をやらせてください、だけじゃダメなんだよ。自分はこんなことやりたい、それはそれですごく大事。でも、やりたくないこともたくさんあるし」
 シブチンはノートを開いて、モリリンの言葉をメモし始めた。
「でも、先輩はやりたい仕事をやってるんですよね! 特別なアピールとかしたんですか?」
 妖精のドールハウス『トランシルヴァニアンフェアリィ』、通称『トラフェア』を自分の手で作りたくて、ZAIN社を志望した。ところが、恐竜型プラモデル『ダイノス』のリメイクプロジェクトに配属された。
「やりたい仕事ね……」

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #8 やりたい仕事って?

  • 2011年12月08日

 ターミナル駅から少し歩いたところにある喫茶店に向かう。今からなら時間取れるよ、とメールしたところ、ダッシュで行きますという返事をもらった。フットワークは軽いようだ。
(わたしもサークルの先輩たちに無理なお願いしたしね……)
 禁煙席を見渡すと、スーツ姿の小柄な青年の姿が目に入った。
「モリリン先輩! お忙しいところありがとうございます!」
「シブチン、ひさしぶりだね」
 シブチンこと渋谷義之は3つ下の後輩だ。サークルで共に過ごした時間は少ないが、ゼミが同じこともあり、モリリンにとっては弟子のような感覚を持っている。ソファ席に座りアイスティーを頼む。
「で、シブチン、玩具業界に興味があるってメールに書いてあったけど……」
「『ヴァンザム』を作りたいんですけど、どうやったらそういう仕事ができるのかなって」
 ヒト型戦闘ロボット『重機兵ヴァンザム』はライバルのバルカン社の製品だ。小学生から社会人まであらゆる男子を夢中にさせている。
「モリリン先輩は『トラフェア』をやりたくてZAIN社を選んだって聞きました! 自分のやりたいことを仕事にするのって、なんか、すごいですよね!」

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #7 仕事に役立つ研修って?

  • 2011年12月07日

 神田が言うには、研修ソフトというテーマに合っていれば、内容はなんでもいいらしい。そんなに適当な開発方針でいいのだろうか。それとも、神田はすでにアイデアを持っていて、試しているのだろうか。
「森下さん、役に立った研修、ある?」
「うーん……」
 まだ社会人2年目だが、これまでいろんな困難があった。失敗もした。でも、仕事に役立った研修なんて受けた覚えはない。
(仕事のやり方はなんとなく身についたような……だって香織先輩がなんでも教えてくれるし、部長からは『研究ノート』ももらったし、たまにショータさんも……ん?)

 特別な研修はなかった。
 それでも仕事のやり方は身についた。

(これまで意識しなかった……っていうか、見えてなかったけど、先輩達の助けがあったから、仕事を進められたってこと……なのかな。そうだよね。もしかして研修なんてどうでもいいのかも……)
 ふと気がつくと、メールボックスに知らないアドレスからメールが届いていた。件名がひっかかった。

 森下凛先輩様
(先輩様って……うわ、重要フラグも付いてる……学生だな)
 学生時代の後輩からの依頼だった。いわゆるOB訪問をしたいという文面だった。

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #6 研修っぽいゲーム?

  • 2011年12月06日

 社員証を見せることで神田を納得させた。
 新製品開発の手順を思い出す。まずやるべきは――
「まずは研修ソフトのコンセプト決めでしょうか」
 神田は腕を組んだ。
「……森下さんはうちのゲームやったことあるのかな?」
「『ゆあろん』やりました!」
「それだけ?」
「え、はい」
「新製品開発の経験は?」
「『ダイノス』リメイクプロジェクトにいました。えと、世界観や人物の設定を……」
「『ダイノス』か。あれは既存の製品のリメイクだよね」
「え?」
 その言葉に戸惑う。どういう意味だろうか。
「研修ソフトをゲームの延長にするつもりはない。研修っぽいゲームではダメだ。ユーザーに刺さらない」
 神田の語気が荒くなった。口を挿む隙がない。
(変人だと思ったけど、けっこう熱い人なのかな)
「ゲーム開発という枠を外して考えるべきだと思う。研修とは、教育とは、なにが必要なのか、なにが求められているのか。いや、それよりも! 森下さん、君の経験を!」
 神田が口を閉ざし、鋭い視線を浴びせる。
「な、なんでしょう?」
「『ダイノス』ミヨ少尉の直営店限定フィギュア手に入らない? 水着のやつ」
「え、えと……」
(ただのオタクかも……)

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #5 天才か変人か

  • 2011年12月05日

「……で、なんだったかな」
 汚れたTシャツにジーンズ姿の男がモリリンをにらみつける。ボサボサの髪、整った顔、無精ヒゲ、細い指、金色のベルト、長い脚、そして裸足。
(絶対ヘンなヒトだよ……)
 深呼吸してから口を開く。
「本日より配属になりました、森下凛です。よろしくお願いします!」
 男はどうやらメガネを探していたようだ。
「で、なんだったかな」
 こちらの話はまったく聞いていない。
「あの、今日からこちらで働く……」「そうか。僕は神田貴志。よろしく。いちおうここの責任者。まあ座りなよ。ゲーム作ったりしてる。まずはマシンの設定か。パソコンは使ったことある?」
 どうやらこの男が上司らしい。神田が机に腰を下ろすのを待ってから、モリリンはキャスター付きのイスに腰掛けた。
「えと、PCは、まあ、使えますけど」
「最近の若い子は優秀だな。じゃあ適当に好きなのを選んで起動して。マニュアルがそのへんのバインダーにあるから。それ読みながら進めて。あと履歴書くれるかな。人事がうるさいんだ」
「履歴書?」
「ああ、無かったらとりあえず学生証とか、生徒手帳でもいいよ。学校近いの?」
「……わたし、社会人なんですけど」

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #4 美少女のいる職場

  • 2011年12月02日

 重そうなドアを2度ノックしたが、返事はない。遠慮がちに「企画8課」と書かれたプレートは、ドアの上で傾いていた。
(うーん、どうしようかな……)
 廊下を振り返ると、ひびの入った壁、うす汚れた床、点滅する蛍光灯が目に入る。予算が無い職場のイメージが強まった。
 意を決し、ドアノブを引っ張ると、あっさりと開いた。室内は明るい。
「し、失礼しまーす」
 小さな事務所だった。普通のマンションに例えると2LDKくらいだろう。ゆっくりと全体を見回すが、人の姿は見えない。机にはPCが数台並んでいるようだが、資料やなんかがごちゃごちゃと盛られモニターを覆っている。右手の壁には美少女キャラクターのポスターがところ狭しと貼られている。反対側の壁にはショーケースのような棚があるが、中身は美少女フィギュアで埋め尽くされていた。
(まあ、ゲームの資料ってことなんだろうけど……)
 なんだか空気が悪い。荷物を適当に置き、窓際へ寄る。
 足元にサンダルが転がっていた。
(これ、居酒屋のサンダルだ……なんでまた……ん?)
 窓際の机の下に、人間がひとり転がっていた。
「ええっ!? ちょっ、だ、大丈夫ですか!?」

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モリリンの腹黒ゲーム開発
 #3 ひとり立ち

  • 2011年11月30日

 どうやら東南アジアの某工場でトラブルが起きたようだった。香織への挨拶もそこそこに、モリリンはひとり、本社とは別の拠点にある企画8課へ向かうことにした。
(香織先輩に頼ってばかりじゃ、ダメだよね……)

 地下鉄の車内で、3通のメールを確認した。異動について人事部から、備品整理について総務部から、そして上司についてショータこと大島翔太からのメールだ。
 ゲームではなく研修ソフトを開発すること。これは課長も言ってたこと。本社の机まわりは片付けないでいいということ。つまり長期の異動ではないらしい。そして企画8課の課長は――
「『ゆあろん』のカンダタさん……?」
 『ゆあろん』とは大ヒットした恋愛シミュレーションゲーム『You Are Not Alone』のことだ。2年前の作品だが、現在でも続編や派生商品が作られている。自社内で知らない者はいない。
(カンダタさん……恋愛シミュレーションゲーム『ゆあろん』を生み出した、天才ゲームクリエイターだよね……って、なんでその人が研修ソフトをつくるんだろう……うーん)
 ショータが無理やり持たせた紙袋を両手に提げ、地下鉄の駅を降りる。

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #2 頼れる先輩

  • 2011年11月25日

「――そんなわけで、さっそく企画8課に行ってもらえるかネ。詳しい話はそこで聞くように」
「え? さっそくって……いま、すぐ、ですか……?」
 メッシュ仕様の高級イスにふんぞり返った課長は、むすっとした表情を見せた。
「君ネ。いま言ったとおりなんだがネ。さっそくと言ったらさっそく……」
「課長、ちょっと待ってください」
 モリリンの背後から、落ち着いた声が聞こえる。振り返らなくとも分かる。尊敬する先輩、篠崎香織が現れたのだ。
「篠崎クン、なにかネ」
 黒髪ショートのパンツスーツ、何事にも手を抜かず面倒見もいい。そんな香織の身長は167cm。150cmのモリリンにとって、彼女は文字通り見上げる存在だ。
「森下さんは、6課でゲーム開発をする、という異動だったはずです。その為の企画も、前回の企画会議を通ってます」
 香織の援護射撃が課長を追い込む。
「企画はウチでひきとる」
「しかし、彼女はまだ2年目です。8課で火消しは……」
「篠崎クンが前に言ったとおり、森下クンは2年目ながら優秀だからネ。活躍してもらいたいんだよネ」
「せめて引き継ぎの時間を……」
 ぷるるるる、という電話のコール音が香織の言葉を遮った。

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #1 新たな仕事

  • 2011年11月20日

「――というわけで、森下クン、君はネ、企画8課に行ってもらう」
 呼び出しを食らった森下凛は、浜課長の言葉に違和感を覚えた。
(え? スマホアプリの企画6課じゃ……なかったっけ)
 聞いていた話と違う。前回の会議で決定したことがひっくり返る。上司の意見と先輩の指示が合ってない。
(よくあること、だよね。ここで逆らっても意味ないよね……)
 入社して1年半。想定外の仕事であっても、自分自身を納得させることができるようになっていた。
 今にも崩れ落ちそうな書類の山に囲まれた浜課長は、何事もなかったかのように話を続ける。
「企画8課でネ、研修ソフトを開発してもらえるかネ。えーらーにんぐだネ」
「は、はあ……eラーニングですか」
 スマートフォン向けソーシャルゲームの企画を担当すると聞いていた。業務のかたわら、企画書をいくつか書き上げていた。課長の言葉通りの任務なら、用意していた企画はゴミ箱行きだ。スマホではなくPCに、娯楽ではなく学習に、アイテム課金ではなくダウンロード販売に、それぞれ意識を切り替えなければならない。
(うぅ、築城ゲームに力士育成ゲーム……せっかく考えたのに)

to be continued