モリリンの腹黒ゲーム開発[就活編]
#1 就活って?

  • 2011年12月09日

 プラモデルをつくりたい。シブチンのその想いは大事だが、それだけでは内定はもらえない。
(まずは自己分析でしょ、で自己PRまとめて、SPI勉強して、業界研究……いや、その前にインターンやって仕事を理解しつつ企業にアピール……ん?)
「シブチン、就職活動ってひとことでまとめるとなんだと思う?」
「え、仕事探し、じゃないですか?」
 学生の視点で考えたらその通りかもしれない。とはいえ、社会人となってから振り返ると、それだけでは足りない気がする。
「自分自身を売ること」
「え?」
「やりたい仕事をやらせてください、だけじゃダメなんだよ。自分はこんなことやりたい、それはそれですごく大事。でも、やりたくないこともたくさんあるし」
 シブチンはノートを開いて、モリリンの言葉をメモし始めた。
「でも、先輩はやりたい仕事をやってるんですよね! 特別なアピールとかしたんですか?」
 妖精のドールハウス『トランシルヴァニアンフェアリィ』、通称『トラフェア』を自分の手で作りたくて、ZAIN社を志望した。ところが、恐竜型プラモデル『ダイノス』のリメイクプロジェクトに配属された。
「やりたい仕事ね……」

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #8 やりたい仕事って?

  • 2011年12月08日

 ターミナル駅から少し歩いたところにある喫茶店に向かう。今からなら時間取れるよ、とメールしたところ、ダッシュで行きますという返事をもらった。フットワークは軽いようだ。
(わたしもサークルの先輩たちに無理なお願いしたしね……)
 禁煙席を見渡すと、スーツ姿の小柄な青年の姿が目に入った。
「モリリン先輩! お忙しいところありがとうございます!」
「シブチン、ひさしぶりだね」
 シブチンこと渋谷義之は3つ下の後輩だ。サークルで共に過ごした時間は少ないが、ゼミが同じこともあり、モリリンにとっては弟子のような感覚を持っている。ソファ席に座りアイスティーを頼む。
「で、シブチン、玩具業界に興味があるってメールに書いてあったけど……」
「『ヴァンザム』を作りたいんですけど、どうやったらそういう仕事ができるのかなって」
 ヒト型戦闘ロボット『重機兵ヴァンザム』はライバルのバルカン社の製品だ。小学生から社会人まであらゆる男子を夢中にさせている。
「モリリン先輩は『トラフェア』をやりたくてZAIN社を選んだって聞きました! 自分のやりたいことを仕事にするのって、なんか、すごいですよね!」

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #7 仕事に役立つ研修って?

  • 2011年12月07日

 神田が言うには、研修ソフトというテーマに合っていれば、内容はなんでもいいらしい。そんなに適当な開発方針でいいのだろうか。それとも、神田はすでにアイデアを持っていて、試しているのだろうか。
「森下さん、役に立った研修、ある?」
「うーん……」
 まだ社会人2年目だが、これまでいろんな困難があった。失敗もした。でも、仕事に役立った研修なんて受けた覚えはない。
(仕事のやり方はなんとなく身についたような……だって香織先輩がなんでも教えてくれるし、部長からは『研究ノート』ももらったし、たまにショータさんも……ん?)

 特別な研修はなかった。
 それでも仕事のやり方は身についた。

(これまで意識しなかった……っていうか、見えてなかったけど、先輩達の助けがあったから、仕事を進められたってこと……なのかな。そうだよね。もしかして研修なんてどうでもいいのかも……)
 ふと気がつくと、メールボックスに知らないアドレスからメールが届いていた。件名がひっかかった。

 森下凛先輩様
(先輩様って……うわ、重要フラグも付いてる……学生だな)
 学生時代の後輩からの依頼だった。いわゆるOB訪問をしたいという文面だった。

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #6 研修っぽいゲーム?

  • 2011年12月06日

 社員証を見せることで神田を納得させた。
 新製品開発の手順を思い出す。まずやるべきは――
「まずは研修ソフトのコンセプト決めでしょうか」
 神田は腕を組んだ。
「……森下さんはうちのゲームやったことあるのかな?」
「『ゆあろん』やりました!」
「それだけ?」
「え、はい」
「新製品開発の経験は?」
「『ダイノス』リメイクプロジェクトにいました。えと、世界観や人物の設定を……」
「『ダイノス』か。あれは既存の製品のリメイクだよね」
「え?」
 その言葉に戸惑う。どういう意味だろうか。
「研修ソフトをゲームの延長にするつもりはない。研修っぽいゲームではダメだ。ユーザーに刺さらない」
 神田の語気が荒くなった。口を挿む隙がない。
(変人だと思ったけど、けっこう熱い人なのかな)
「ゲーム開発という枠を外して考えるべきだと思う。研修とは、教育とは、なにが必要なのか、なにが求められているのか。いや、それよりも! 森下さん、君の経験を!」
 神田が口を閉ざし、鋭い視線を浴びせる。
「な、なんでしょう?」
「『ダイノス』ミヨ少尉の直営店限定フィギュア手に入らない? 水着のやつ」
「え、えと……」
(ただのオタクかも……)

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #5 天才か変人か

  • 2011年12月05日

「……で、なんだったかな」
 汚れたTシャツにジーンズ姿の男がモリリンをにらみつける。ボサボサの髪、整った顔、無精ヒゲ、細い指、金色のベルト、長い脚、そして裸足。
(絶対ヘンなヒトだよ……)
 深呼吸してから口を開く。
「本日より配属になりました、森下凛です。よろしくお願いします!」
 男はどうやらメガネを探していたようだ。
「で、なんだったかな」
 こちらの話はまったく聞いていない。
「あの、今日からこちらで働く……」「そうか。僕は神田貴志。よろしく。いちおうここの責任者。まあ座りなよ。ゲーム作ったりしてる。まずはマシンの設定か。パソコンは使ったことある?」
 どうやらこの男が上司らしい。神田が机に腰を下ろすのを待ってから、モリリンはキャスター付きのイスに腰掛けた。
「えと、PCは、まあ、使えますけど」
「最近の若い子は優秀だな。じゃあ適当に好きなのを選んで起動して。マニュアルがそのへんのバインダーにあるから。それ読みながら進めて。あと履歴書くれるかな。人事がうるさいんだ」
「履歴書?」
「ああ、無かったらとりあえず学生証とか、生徒手帳でもいいよ。学校近いの?」
「……わたし、社会人なんですけど」

to be continued

モリリンの腹黒ゲーム開発
 #4 美少女のいる職場

  • 2011年12月02日

 重そうなドアを2度ノックしたが、返事はない。遠慮がちに「企画8課」と書かれたプレートは、ドアの上で傾いていた。
(うーん、どうしようかな……)
 廊下を振り返ると、ひびの入った壁、うす汚れた床、点滅する蛍光灯が目に入る。予算が無い職場のイメージが強まった。
 意を決し、ドアノブを引っ張ると、あっさりと開いた。室内は明るい。
「し、失礼しまーす」
 小さな事務所だった。普通のマンションに例えると2LDKくらいだろう。ゆっくりと全体を見回すが、人の姿は見えない。机にはPCが数台並んでいるようだが、資料やなんかがごちゃごちゃと盛られモニターを覆っている。右手の壁には美少女キャラクターのポスターがところ狭しと貼られている。反対側の壁にはショーケースのような棚があるが、中身は美少女フィギュアで埋め尽くされていた。
(まあ、ゲームの資料ってことなんだろうけど……)
 なんだか空気が悪い。荷物を適当に置き、窓際へ寄る。
 足元にサンダルが転がっていた。
(これ、居酒屋のサンダルだ……なんでまた……ん?)
 窓際の机の下に、人間がひとり転がっていた。
「ええっ!? ちょっ、だ、大丈夫ですか!?」

to be continued